[メディカル朝日(Medical ASAHI)2015年7月号 掲載]

乾あやの、小松陽樹

B型肝炎ウイルス(Hepatitis B Virus; HBV)は、ヒト免疫不全ウイルス(Human Immunodeficiency Virus; HIV)の50~100倍の感染力があり、慢性感染あるいは急性感染により世界で年間60万人が死亡している。現時点で、約20億人(世界人口の3.5人に1人)がHBVに感染し、3億5千万人が持続的に感染しているとされる。これら慢性感染者は乳幼児期のHBV感染が原因である。すなわち、1歳までの感染で90%、1-4歳の感染で30-50%、5歳以降の感染で6%が慢性化するといわれる。B型慢性感染者の15-25%はHBV関連肝癌あるいは肝硬変で死亡する。そして、その頻度は小児期に感染した方が高い。世界の人口の45%はHBVの高侵淫地域(HBV感染率が人口の8%を超える)に集中している。

HBVを含む、貧困国での死亡率が高くかつワクチンで予防できる感染症の制御目的で、GAVI(The Global Alliance for Vaccines and Immunization; ワクチンと予防接種のための世界同盟)は、すでに2001年から5価混合ワクチン(DPT、HB、Hib)の3回接種を支援している。2014年に支援国は南スーダンを含めた73か国に達し、1本1.19米ドルで提供されている。

一方、2013年の時点でWHO加盟国の約93%(194か国中183か国)がHBワクチンを定期接種プログラムに組み入れている。とくに、前述したHBV高浸淫地域は東南アジア、南太平洋に広く分布し、この地域を管轄するWHO西太平洋事務局での定期接種化率はWHOの中で最も高い。この地域に属する国では本邦だけが定期接種を行っていなかった。しかし、2015年1月15日の厚生労働省「予防接種・ワクチン分科会」において、HBワクチンの定期接種化が決定した。早ければ2016年度から0歳児へ3回接種が開始される。



先進国での混合ワクチン接種の変遷

ヨーロッパでは2000年から、ジフテリア・破傷風・百日咳・HB・ポリオ・ヘモフィルスインフルエンザ菌b型(Hib)の6価混合ワクチン接種が主にスロバキア、イタリア、ドイツで開始された。混合ワクチン接種の利点を表に挙げた。これらの利点は、欧米で広く受け入れられつつあり、適切な時期に適切なワクチンを高い接種率で行うことに寄与している。現在は、世界で6価混合ワクチンは少なくとも95か国で使用され、2012年までに9,000万回接種されている。当初は、Hexavac®とInfanrix hexa®が使用されていたが、Hexavac®のHBs抗体価の獲得率の低さが指摘され(図1)、2005年にはHexavac®の使用許可に疑義が唱えられた。HBs抗体価獲得率の差異のひとつに含有されているHBs抗原量が挙げられている。すなわち、Hexavac®のHBs抗原量は5μgに対してInfanrix hexa®は10μgであった。

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同時期にドイツとイタリアでは、Hexavac®とInfanrix hexa®で接種し、5年前後経過しHBs抗体価が10mIU/ml未満になった児を対象にHB単価ワクチンを用いて追加接種を行った。その結果、HBs抗体獲得率は良好で、免疫記憶は保持されており追加接種の必要はないと結論づけた。

一方現時点ではHBワクチンは、1回目のワクチン接種を出生時(birth dose)に行っている国が多い。欧米では、Infanrix hexa®の月齢3、5、11の3回接種が試行され、接種後1か月の時点で100%のHBs抗体価の獲得が報告されている。



世界における6価混合ワクチンの展望

現在は、液状の6価混合ワクチンの効果がラテンアメリカを中心に検討されている(Hexaxim TM)。月齢2、4、6の3回接種で他の含有ワクチンと同等の高い率でHBs抗体が獲得されている(図2)。

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本邦における混合ワクチンの展望

 将来的には本邦でも表に示した利点から混合ワクチンの接種が推奨される。しかし、新しいワクチンの導入あるいは接種スケジュールの変更は幅広い医療従事者の理解と協力が必須である。カナダでの検討では、新しいワクチンの導入には臨床医の知識、考え方、信念が強く影響されるとしている。さらにこれらの臨床医の行為にはワクチンメーカーからの啓発活動が強く関わっているとされる。この状況を踏まえて、各感染症、予防接種の専門家は、医療従事者ならびに国民に公正な情報を提供し続ける義務がある。

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