私の親友であり、小児の肝移植に関しては常にトップドクターの笠原群生(むれお)氏から原稿をいただきました。

国立成育医療研究センター 臓器移植センター 笠原群生

はじめに

1997年に「臓器の移植に関する法律」が施行されたが、15歳未満の小児からの臓器提供は認められず、臓器移植が必要な小児末期臓器不全患者を救命する十分な手段とはならなかった。2010年7月17日、いわゆる改正臓器移植法が全面的に発効した。脳死後に臓器を提供する意思表示がない場合(提供しない意思表示をしている場合を除く)でも、家族が脳死判定実施および判定された後の臓器の摘出について書面により承諾した場合は、脳死後の臓器摘出ができるようになった。

法改正により脳死臓器提供数は増加が見込まれたが、年間40-50例と著明な増加には至っていない。法改正後から2015年12月現在までの5年間に、6歳未満の脳死小児ドナー4例からの臓器提供があったが、年間約100例に上る小児移植待機患者の需要を満たすほどの増加とは言い難い(文献1)。臓器移植に関わる医療者は、今後更に脳死臓器移植推進を広く社会に啓発してゆくべきである。

また小児ドナー臓器が小児レシピエントに優先的に配分される規則が、心臓移植でしか有効機能していないため、多くの小児ドナー臓器が小児レシピエントではなく成人レシピエントに配分されている。「小児臓器は小児レシピエントへ」は多くの国民・医療従事者に賛同されやすいと考えている。貴重な小児脳死臓器が移植を待つ小児患者に適正に配分されるよう、臓器斡旋規約改正に鋭意努力すべきであろう。



小児脳死臓器提供の現状

本邦における小児肝移植症例数(18歳未満)は100~120症例/年間である(図1)。

<図1. 本邦における小児肝移植数>
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その95%以上が健常成人をドナーとした生体肝移植が主体であり、改正脳死法案施行後も大きな変化はない。特に小児脳死下臓器提供数は非常に少なく、年間数例に留まっている。改正脳死法案施行後、従来の4類型病院に加え日本小児総合医療施設協議会会員施設が提供施設に加わった。国立成育医療研究センターでも臓器提供シミュレーションを全職員対象に複数回実施してきたが、心停止後臓器提供1例のみで脳死臓器提供には至っていない。

病院内の虐待防止委員会による被虐待児の除外、倫理委員会での検討、子どもの脳死判定、脳死患者からの臓器摘出(脳死下臓器提供)、レシピエントへの臓器移植、患者家族へのグリーフケア、移植後の患者家族へのケア、日本臓器移植ネットワークの活動など、脳死下臓器移植を行うために必要な具体的事項について、これまでほとんどの小児医療施設は経験がなく小児医療の現場での準備が十分にできているとは言い難い状況である。

小児の脳死下臓器移植に対する姿勢は、各国ごとの法律・医療制度・文化によりさまざまであるが、社会全体が脳死移植医療を支持するという姿勢・文化がなければ推進することは不可能だと考えている。



小児脳死移植の現状

国立成育医療研究センターでは2015年11月肝移植プログラムを開始し、2016年11月末までに377例の肝移植を実施してきた。2015年度肝移植症例数は約70例で、本邦の小児肝移植の約7割を占めている(図2)。

<図2. 国立成育医療研究センター 臓器移植センター>
 肝移植・肝細胞移植数 合計377例(2005/11-2015/11)
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当センターは2010年8月にレシピエント18歳未満限定の脳死移植施設と認定された。小児脳死臓器提供が限られているため、待機患者が18歳以上になると登録施設変更が必要であった。18歳以上の脳死移植を実施するには成人生体肝移植経験が必要とされ、成人生体肝移植経験を積んだのち2015年7月13日「国立成育医療研究センターにおいては,18歳未満で脳死肝移植のレシピエント登録をした患者に限り、登録が18歳以上に継続した場合でも同センターで脳死肝移植を受けることができる(医学会発第31号)」と移行期患者への肝移植も承認された。

当センターでは2010年8月から2015年12月現在までの5年間で脳死肝移植93例登録を実施してきた。登録時平均年齢5.7±5.7歳(日齢11~17.8歳)、体重20.4±16.2kg(2.1~67kg)であった。脳死移植登録対象疾患は劇症肝炎33例(35.5%)、移植後肝不全15例(16.1%)、胆道閉鎖症12例(12.9%)、高シュウ酸尿症5例(5.4%)、原発性硬化性胆管炎4例、オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症4例、肝線維症3例、Caroli病3例、Alagille症候群3例、自己免疫性肝炎2例、プロテインC欠損症2例、Wilson病2例、シトルリン血症1例、家族性肝内胆汁鬱滞症1例、メチルマロン酸血症1例、家族性高コレステロール血症(ホモ接合体)1例であった。登録時の医学的緊急度平均点数は7.8±2.1点で、10点49例(52.7%)、8点6例(8.6%)、6点29例(31.2%)であった。

登録症例は院内脳死肝移植適応評価委員会で審査されたのち、中央判定委員会でその適応が判断されるが、緊急性の高い劇症肝炎・遺伝性疾患等で家族内に生体ドナーが不在の場合を原則脳死移植適応としている。脳死登録93例中、16例(17.2%)脳死肝移植実施され、4例(4.3%)は他施設と協力してメープルシロップ尿症の1次レシピエント(2次ドナー)から生体ドミノ肝移植を実施した(文献2、3)。米国OPTN(Organ Procurement and Transplantation Network)の年次報告によると小児肝移植の約8.9%が再移植と報告されている(文献4)。

わが国の生体肝移植後再移植症例の全肝移植に対する比率は3.4%で、欧米の再移植よりもその適応比率は低いと言える(文献5)。治療の効果なく残念ながら生体肝移植後再移植に至る症例は、慢性拒絶など必ずしも外科的合併症で肝不全に至るわけではない(文献6)。当センターの生体肝移植後肝不全症例も、外科的合併症(肝動脈血栓、門脈血栓、肝静脈狭窄、胆管合併症など)による脳死再移植登録症例はなく、慢性拒絶反応・液性拒絶反応に伴う移植後肝不全が多い。限られた脳死臓器提供のなかで移植後肝不全症例への臓器配分が議論にあがることが予想されるが、今後も一定数見込まれる慢性拒絶反応症例に対し、本邦での脳死肝再移植成績を勘案しながら、適正に臓器配分をするべきである。

また小児脳死登録患者の全脳死登録患者に対する比率は米国OPTN4.5%、本邦2.7%に過ぎない。小児脳死移植を推進するためにも、脳死移植施設は積極的に小児肝不全患者を脳死肝移植の希望者として登録すべきであろう(文献4,5)。



分割肝移植

非常に少ない小児脳死臓器提供数を勘案し、脳死肝移植症例数増加のための様々な手術手技の工夫がなされている。特に成人脳死ドナーの肝臓を、生体肝移植と同様の手技で2つに分割し、大きな右葉を成人レシピエントに・小さな外側領域(または左葉)を小児レシピエントに移植する「分割肝移植」を当センターで積極的に実施している(図3)。

<図3. 脳死分割肝移植>
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現在、移植学会Working Groupで分割肝移植に適した脳死ドナー選択基準・分割方法(体内>体外)・阻血時間短縮の方法・脳死レシピエント選択基準を作成している。成人脳死ドナー肝臓を分割することにより、小児脳死臓器提供は少ないが小児脳死肝移植実施数は若干増加傾向にある。良好な肝機能を有する脳死肝臓であれば分割肝移植を安全に施行でき、1名の脳死ドナーから2名の肝移植レシピエントを救命することが可能であるため、成人肝移植施設と協力し積極的に実施している。

わが国における分割肝移植は23例(354例中)に実施されており、全脳死肝移植の6.5%に相当する。特に欧州では小児脳死肝移植の約6割が分割肝移植により実施されている。欧米の分割肝移植比率(米国16.1%、欧州59.5%)には至らないが、特に改正脳死法案後は10.7%の脳死移植に分割肝移植が適応されている。分割実施施設も多岐にわたり、肝移植施設間の良好な連携が分割肝移植を可能にしている要因である。分割肝移植の適応基準を明確にし、今後も積極的に適応をしてゆきたい(文献2)。



小児脳死移植の今後

小児脳死移植進展に何が必要か、臓器提供啓発・小児脳死登録数増加・分割肝移植推進について私見を述べた。末期臓器不全に対する根治的治療として臓器移植医療は既に確立された医療と言える。わが国における小児肝移植の生存率は1年89.0%、10年83.5%、20年80.5%と非常に良好な成績であるが、換言すれば11%の症例が肝移植後、死亡に至る可能性を伴う、大変厳しい側面も持ち合わせている(文献7)。

特に生体肝移植はドナー合併症が避けられず、将来的に生体移植だけに依存した移植医療は考え直されるべき時期に来ているといわざるをえない。昨今の肝移植症例数減少・脳死移植数停滞を鑑みると、社会(医師も)が極めて重篤な臓器不全状況にある患者の救命から目を逸らし、生死に関わる医療を避ける傾向にあるのではと危惧している。

わが国で臓器移植医療を支え・発展させてきた先輩医師達の努力を踏襲し、肝移植医療の発展に我々世代が邁進してゆかなければならない。外科医離れが進むなかで、若手肝胆膵・移植外科医の育成も大変重要な問題である。

当センターでは年間70例の小児生体肝移植を実施しているが、手術件数は概ね週2回(ドナー含め4回)と一般外科手術件数に比較し大変少ない。重症肝不全の患者を救命しようと志し、その治療に情熱を傾ける若手外科医・小児科医が、できるだけ多くの専門的経験を重ね、研鑽を積める機会を設けるためにも、症例をさらに集約化することが必要である。それは治療成績の向上といった結果がもたらされるだけでなく、移植医療のもつ潜在的魅力を、次世代を担う若手医師らに引き継ぐことにもつながる。

さらに過酷な肝移植医療の労働環境を、臓器摘出負担の軽減・摘出往復の安全保障・肝臓内科医の参画・人的財政的支援等で改善できるよう移植ネットワーク・移植学会・研究会と協力して活動してゆきたい。臓器移植ネットワークは昨年より組織刷新と厚生労働省から指導されたが、移植医療の現場に関わるコーディネーター・医師への負担・ストレスは全く減っていない。

現在わが国の小児医療も大きな変貌を遂げている。予防接種体制(含RSウィルスワクチン)が改善され細菌性髄膜炎・敗血症・脱水・呼吸器感染症による入院減少が予想されるため、基幹小児医療施設は合併症を有した新生児治療・母体治療・先天性疾患・小児がん・臓器移植等の高度先進医療の必要性に適切に応えてゆくべきである。

小児肝移植は欧米で年間500例程度と一定し、中東および一部アジアのアラブ諸国では生体肝移植が積極的に実施され、韓国・台湾・香港・南米では脳死肝移植数が増加し、中国では心停止後臓器提供が増加し、世界各国とも肝移植症例数は一定ないし増加傾向にある。世界の生体肝移植黎明期を支え、学術的にも発展させてきたわが国の肝移植医療が復興するにはどうすれば・何をすればいいのか、日々苦悩しながら目の前の患者さんを救命するために粛々と小児肝移植を行っているのが現状である。答えはまだない。



文献

1)日本臓器移植ネットワーク. http://www.jotnw.or.jp/datafile/offer/index.html
2)Current status of deceased donor split liver transplantation in Japan. Sakamoto S, Kasahara M, Ogura Y, Inomata Y, Uemoto S; Japanese Liver Transplantation Society. J Hepatobiliary Pancreat Sci. 2015 in press
3)Successful living domino liver transplantation in a child with protein C deficiency. Matsunami M, Ishiguro A, Fukuda A, Sasaki K, Uchida H, Kanazawa H, Sakamoto S, Ohta M, Nakadate H, Horikawa R, Nakazawa A, Ishige M, Mizuta K, Kasahara M. Pediatr Transplant 2015:19:E70-74.
4)OPTN. http://optn.transplant.hrsa.gov/converge/latestData/viewDataReports.asp
5)Long-term Outcomes of Pediatric Living Donor Liver Transplantation in Japan: An Analysis of More than 2,200 Cases Listed in the Registry of the Japanese Liver Transplantation Society. Mureo Kasahara, Koji Umeshita, Yukihiro Inomata, Shinji Uemoto. Am J Transplant 2013;13:1830-1839
6)Outcomes for pediatric liver retransplantation from living donors. Ogura Y, Kaihara S, Haga H, Kozaki K, Ueda M, Oike F, Fujimoto Y, Ogawa K, Tanaka K. Transplantation. 2003;76:943-8.
7)日本肝移植研究会・肝移植症例登録報告2013年度. http://jlts.umin.ac.jp/images/annual/JLTSRegistry2013.pdf